NPO法人伝統木版画ルネサンスは、彫刻家舟越桂氏を美術アドバイザーとしてお迎えしています。
氏は常より伝統木版画に深い理解を示され、これまでにも職人とのコラボレーションによって注目すべき木版画作品を発表しています。

このたびNPO法人伝統木版画ルネサンスは、これまでにない試みとして「舟越 桂の眼」を企画しました。
この企画は氏の眼を通して世界の名画をアレンジし、斬新な小作品を創作するものです。あなたが見慣れた名画は氏の指示のもと、伝統木版画を今に伝える彫師、摺師の技によって、全く新しい作品に生まれ変わります。
その小作品には伝統木版画の技術や材料について平常知ることのできない解説も添えられていますので単なる鑑賞品にとどまらず、またとない貴重な資料ともなることでしょう。

当NPO法人の活動にご賛同下さり、会員になられた方へ「舟越 桂の眼」の一枚をお送りしています。
入会後1ヶ月以内に会報誌と一緒にお届けいたします。
是非あなたのお手元に末永く置いていただけるよう願っています。

なお、舟越桂先生、堀井祐子先生には、当NPO法人の事業活動に無償でご協力いただいております。


*見立絵:江戸時代の好事家たちは俳諧の趣味深く、その本質が和歌にあったことから、機智的なあそびを浮世絵版画に取り入れ、摺り物などにした。
*摺り物:ひいきの絵師に自分用(オートクチュール)の絵を描かせ木版画にし、仲間内の配り物や交換に用いた。
*六歌仙:「古今和歌集」の序に名をあげられた6人の歌人
在原業平、僧正遍昭、喜撰法師、大伴黒主、文屋康秀、小野小町
*胡粉:貝殻を焼いて作った白色の顔料
鈴木春信 見立絵「風流六歌仙 文屋康秀」より

粋でいなせな江戸庶民の日々の姿を描いたものが多い浮世絵の中で、春信の作品は、庶民ばかりでなく武家も含んだ家族、友人、恋人たちとの穏やかでゆったりとした情景が多いのが特徴です。それらの中に、時折“あれっ!!”と思えるまるでスナップ写真のような動きのある作品を見出すことができます。
今回は、そんな作品のひとつを舟越先生が選んで下さいました。
多色摺浮世絵版画の基となる墨線が彫られた板は、墨版あるいは主版と呼ばれます。
その墨版を活かすため、あえて色数を抑えての制作となりました。
長襦袢と帯、着物の水玉は、舟越氏オリジナルの色と柄です。
又、先生のご注文で顔と足にのみ胡粉(*)を摺り込みました。紙の地色との識別は、目から少し離し斜めから見ることです。お試し下さい。

 「桂の眼」も5作目の制作となり、今年度は浮世絵の原点に戻り、多色摺の祖ともいえる鈴木春信に題材を求めました。
明和期に考案された見当(紙を一定の位置に置くための版木上に彫られた2箇所のポイント)によって春信は一躍多色摺り浮世絵版画の絵師としてスターの座につきました。

 司馬江漢もこんな一文を書き残しています。
「其頃、鈴木春信と云う浮世絵師、
当世の女の風俗を描くことを妙とせり。」
          (春波楼筆記)


 多色摺りの出現で、それまで主流をしめていた鳥居派の紅摺絵が急に色あせて見えたのは仕方のないことでしょう。春信の描く人物は、男女といえど文化文政の浮世絵版画爛熟期のそれとは全く異なり、少年少女の夢物語のような雰囲気が場面に漂います。
 さて、何といってもこの“雪中相合傘”が世界的に有名です。白と黒を基調とした現代にも通じるモダンな作品は、今もって人気が高く、誰もがどこかでお目にかかっているはずです。
 この度、舟越桂氏は、この代表的な“静”の作品とは対照の“動”の作品に目をとめられたようです。
人物を題材とする舟越氏の作品には、長い首と思わぬ所に置かれている手を見ることができます。
そこで、伺いました。
ある時 突然イメージがひらめく時があります。
それは自分だけでイメージしているわけではなく 天から降りてくる 神の啓示なのです。
そしてそれが言葉や文字になる前につかみ取る手を作品の内に具現化しています。
舟越 桂
舟越先生から手渡された原本は正にコラージュでした。
カラーコピーされた多くの資料から各部分が貼り合わされ、一つの肖像画として「舟越桂の眼ならぬ世界」を創り上げていました。
尚、画中の二つの手はモーツァルトの異なった二点の肖像画からとられました。

《仕様》
手摺木版画 6版10度摺り
用 紙      越前手漉奉書紙
用 材      桜材ほか
彫         小池 香世子
摺         山口 晶広
カリグラフィー 堀井 祐子
協 力      高橋工房
                   
[特別寄稿]
モーツァルトの肖像画について
小柴 貴信
 今年(2006年)はモーツァルト生誕250年ということでモーツァルトの作品が演奏会のプログラムを賑わせた。
 では、こんなに多くの人々から愛されるモーツァルトはどんな容貌をしていたのだろうか。
 写真がなかった当時としてはそれを知る手がかりは肖像画に頼るしかない。現代の私たちには映画「アマデウス」の俳優のイメージが強烈であるが、何点か残っているモーツァルトの面影を想像することはできる。専門家によるとモーツァルトの真正な肖像画は14点あるそうだ。ここでいう“真正”とはモーツァルトの生前にモーツァルトをモデルとして描かれたものをいうらしい。それら“真正”なモーツァルトの肖像の中で最も早い時期のものは、1763年の初め頃にウィーンで描かれた「大礼服を着た6歳のモーツァルト」である。(図1参照) モーツァルトが着ている大礼服は、前年の秋に初めてウィーンを訪れた際、マリア・テレジァから贈られたものであったという。しかし私たちに一番よく知られているモーツァルト像といえば、義兄ヨーゼフ・ランゲによる未完の、何かを見つめている?モーツァルトの横顔の肖像画ではないだろうか。(図2参照)
モーツァルトの肖像画を描いた画家たちは、モーツァルトと何らかの関係のあった人達やモーツァルトの旅先で父レオポルドの依頼によって描かれたものもあり、アマチュアの域を出ない人達であったようで美術史的には大した問題にはならない。
 今年、5月に開催された「熱狂の日 音楽祭2006」(於・東京国際フォーラム)で大きな看板となって吊り下げられた肖像は、モーツァルトの死後1819年にバルバラ・クラフトがいくつかの真正な肖像画、とりわけ「家族の肖像」を手本に描いたものである。(図3参照)
 今年度の作品は、日本一の名峰・富士、北斎描く「冨嶽三十六景」に焦点をあてました。
 いつの時代にも富士は私たちにとって親しみのある特別な山で、多くの画家たちが今尚描き続けている題材のひとつです。
 北斎の富士が今も色あせず強力な印象を与えているのは、彼が目に映る景観をそのまま筆にするのではなく、いかにみせうかに工夫をこらした点にあったようです。
 中でもグレートウェーブと呼ばれる「神奈川沖裏之富士」は世界に多くのファンをもつ、最も有名な一点です。
 今回は「従千住花街眺望ノ不二」からその一部をトリミングし、そこに舟越氏自らが筆(ペン)を加えて下さいました。
 まさに画狂人・北斎と彫刻家・舟越 桂との時空を超えてのコラボレーションといえましょう。
 今回、舟越桂氏の視点は当NPO法人のネーミングに因んで、ルネッサンス芸術にテーマを採りました。
 アレッツォ(イタリア・トスカーナ地方)の聖フランチェスコ聖堂のフラスコ画連作の一画面《聖十字架の建立》。画家の名はピエロ・デッラ・フランチェスカ、15世紀に描かれました。
 品格を感じさせる独特の色彩、そして、精緻を尽くした構図など、トスカーナのルネッサンス絵画の中でも重要な作品です。この中でピエロは、ビザンチン人の服装を実証しており、彼らの被っている豪奢な帽子は、この場面の荘重さを強調していると言われています。
 そこで今回のモチーフは、このユニークな帽子です。見どころは、現在ではほとんど使われなくなった珍しい技法『きめ出し』を作品の中に試みていることです。西欧中世の壁画のモチーフと江戸時代の伝統技法のコラボレーションから、どんな創作が可能なのでしょうか?

 今回の作品も前年度の“大はしあたけの夕立”と同じく、小池香世子さんが彫りを担当し、摺りは山口晶広さんが堀田輝雄さんの指導のもと制作に励んでいます。
折りしも今年は江戸開府400年。この記念すべき年に因んで歌川広重の名作「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」を取り上げました。原画とは趣を異にする仕上がりの魅力によって、木版画をもっと身近なものに、という私たちの活動の趣旨を皆様にお伝えしたいと思います。

広重の名所江戸百景『大はしあたけの夕立』驟雨のなかを足早に先を急ぐ女性二人。
姉妹なのか? 前が見えないほどにつぼめられた唐傘の中はうかがい知れない。
蹴出しの下にのぞくたおやかな脚の白さにほんのりとした色気と若さが見て取れる。
原画の一部を“舟越桂の眼”として新たな角度でデザインされた作品は伝統木版画の技術が凝縮されている。
和紙の持つ質感のあたたかさ、雨 脚を表現した細い直線の彫刻跡、そして刷り色の自然な風合い。
どんな高度な印刷技術をもってしても得ることの出来ない伝統の温もりが小さな作 品から伝わってくる。
摺りあがる過程を見る
舟越 桂(Katsura Funakoshi) -経歴-
1951
岩手県盛岡市に生まれる
1975
東京造形大学彫刻科卒業
1976
新具象彫刻展(東京都美術館)-グループ展-
1977
東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
1982
ギャラリー・オカベ (東京)
1985
西村画廊 (東京)
1986
文化庁芸術家在外研修員として一年間ロンドンに滞在
1987
シガ・アニュアル '87「主張する人体」(滋賀県立近代美術館)-グループ展-
1988
西村画廊 (東京)
第43回ベニス・ビエンナーレ(イタリア)-グループ展-
1989
アーノルド・ハースタンド画廊(ニューヨーク)
アゲインスト・ネイチャー(サンフランシスコ現代美術館、他)-グループ展-
第20回サンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル)-グループ展-
1990
サンフランシスコ、ロサンゼルスにてエッチングを制作刊行
第4回富山国際現代美術展(富山県立近代美術館)-グループ展-
西村画廊 東京
1991
アネリー・ジュダ・ファイン・アート(ロンドン)
西村画廊 (東京)
タカシマヤ文化基金第1回新鋭作家奨励賞を受賞
1992
ドクメンタIX カッセル (ドイツ)-グループ展-
第9回シドニー・ビエンナーレ(オーストラリア)-グループ展-
1993
西村画廊 (東京)
「今日の作家たちV坂倉新平、舟越桂展」神奈川県立近代美術館 (神奈川県)-グループ展-
1994
スティーヴン・ワーツ・ギャラリー(サンフランシスコ)
アンドレ・エメリックギャラリー (ニューヨーク )
1995
第26回中原悌二郎賞優秀賞を受賞
西村画廊 (東京)
1996
西村画廊 (東京)
アネリー・ジュダ・ファイン・アートロンドン
1997
第18回平櫛田中賞を受賞
井原市立田中美術館 (岡山)
1998
「Art Chicago 1998」 ネイビーピアフェスティバルホール (シカゴ)
「SUMMER SHOW 1998 」西村画廊 (東京)
「ACAF6」ロイヤルエキジビジョンビルディング (メルボルン)
1999
「メディテーション-真昼の瞑想」 栃木県立美術館 -グループ展-
「彫刻・具象表現の解体と構築」 東京芸術大学美術館 陳列館 -グループ展-
アネリー・ジュダ・ファイン・アート(ロンドン)
2000
レックリングハウゼン美術館 (ドイツ)
ハイルブロン美術館 (ドイツ)
「上海ビエンナーレ」上海美術館 (上海)
2001
「SEPTEMBER 2001」 西村画廊(東京)
「時の旅人たち」 愛知県立美術館
2002
「タカシマヤ美術賞展」 日本橋高島屋、横浜高島屋、大阪なんば高島屋、京都四条高島屋
「東日本−彫刻 39の造形美」 東京ステーションギャラリー(東京)
「こころのパン」プロジェクト イズミット市立美術館(イズミット、トルコ 他)
「森の美術散歩II 芸術の森美術館コレクションから」 芸術の森美術館
ギャラリーたむら(ドローイング) (広島)
「地図になる前」(未公開ドローイング) 西村画廊 (東京)
第33回中原悌二郎賞を受賞
2003
「市民コレクションによる『舟越保武とファミリー展』」 もりおか啄木・賢治青春館
「舟越桂 1980-2003 」東京都現代美術館、栃木県立美術館、北海道立旭川美術館、高松市美術館、岩手県立美術館、広島市現代美術館
2006
アネリー・ジュダ・ファイン・アート (ロンドン、エルンスト・バルラッハ・ハウス ハンブルグ )
特定非営利活動法人(NPO)
伝統木版画ルネサンス
〒112-0005 東京都文京区水道2-4-19
TEL:03-3814-2839 FAX:03-3811-7341

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